心理学と経済学を融合させた行動経済学は「人間は不合理な選択をする」理由についてまとめた学問です。
行動経済学を理解し活用することでユーザーの行動を上手く誘導することができます。
この記事ではマーケティングに使える行動経済学の理論についてまとめていますので、日頃の業務に活用いただけますと幸いです。
マーケティングに使える理論
早速理論を紹介していきます。
現状維持バイアス
文字通りですが、人は現状から何か変化を起こすことを嫌います。特に自発的ではない場合は尚更です。
例えば、既に自社の広告運用を任せている代理店が存在するとします。そこに新たに広告代理店の営業が来たとします。明らかに既存の代理店よりも結果が出せそうな代理店にも関わらず、既存の代理店から乗り換えないケースがあります。
他にも、やるならいといけないことがあるのにYoutubeのショート動画をオススメされるままにみ続けてしまうなども該当します。
これは「現状維持バイアス」が働いている可能性があります。
TikTokはアプリを開いた時点で最初から動画を再生し、現状維持バイアスを利用して動画を視聴させ続けるよう工夫されています。
前述の広告代理店の例だと、経営者は落ち着いている現状を変更することを嫌う上に、「もしかするとダメな代理店かもしれない」とリスクを懸念する「損失回避」の心理も働くことで、結局代理店を変更しないこととなります。
システム1とシステム2
人は何か選択する時に瞬発的に(何も考えずに)選択する場合とよく考えて選択する場合があります。
前者を「システム1」後者を「システム2」と呼んでいます。
システム1を使うシーンは例えば、朝ごはんに毎食ご飯を食べたり、何も考えずにコンビニでコーヒーを買ったり、夜何も考えずに甘いものを食べたりなどが該当します。
システム2を使うシーンは例えば、クレジットカードの銘柄を選んだり、引越し先の物件を選んだり、転職先を選んだりする時などが該当します。
どちらが良い悪いというわけではなく、人は無意識的に決断する際の頭のリソースを区別しているということです。
大切なのはシステム1の頭の時にシステム2の決断はできませんし、システム2の頭の時にシステム1の選択肢を出すと考えすぎて狙い通りに行かないということです。
こちらが売りたい商材がシステム1で判断できるものならシステム1の環境で販売し、システム2でないとダメな商材ならシステム2の環境で販売する必要があるということです。
メンタル・アカウンティング
お客様に「これは〇〇用のお金」と意識させることでお金を使いやすくさせる方法です。
例えば、休日に映画を観に行く予定で前売りチケットを買っておいたとします。当日映画館に到着しましたが、チケットを無くしてしまったことに気づいた時、追加でチケット代を払うのに抵抗を感じるかと思います。
このように、人は「あらかじめ用途を決めておいたお金」を使うことには抵抗が少ないですが、予定していなかったことにお金を払うことに抵抗を感じます。
逆に予定していなかった臨時収入などが入ると、元々無いものとして捉えるためお金を使いやすくなります。
自制バイアス
「自分は絶対に誘惑に負けない」と思っていても実際はそうでは無いことを自制バイアスといいます。
特に疲労感が溜まっていてシステム1の思考になっている時には自制心が緩み散財しやすいという特徴があります。
埋没コスト
一度着手してある程度進むと、成果が出ていなくても止めることができない、引き返すことが出来なくなる現状のことを言います。
成果が出ていないのならすぐに止めるべきですが「ここまで手をかけたのだから」「折角なら最後までやり遂げたい」という思いでプロジェクトを止めることができず、コストをかけてしまいます。
機会コスト
埋没コストと関連します。
初期の段階で方向転換をして別の施策に取り組んでいれば結果が出せたかもしれないのに、成果が出ない施策に無駄に手をかけてしまうために機会損失を招くことです。
ホットハンド効果
良いことが続くと何の根拠も無いのに良いことが起こり続けると思い込むことです。
例えば、案件を立て続けに受注出来た際「次も受注できるはず」と思い込みます。
その人の実力もあるかもしれませんが、各案件の受注に因果関係はありません。
大切なことを決める時には根拠のない思い込みで決めず、システム2の頭で熟考して決める必要があります。
アンケートの罠
顧客アンケートは時として全く実態を反映していない結果を出すことがあります。
マクドナルドのアンケートが有名です。顧客アンケートで「健康的なメニューを用意したら注文しますか?」という問いに対し、多くのお客さんが「はい」と答えたにも関わらず、実際販売すると全く売れなかったという話です。
これは、アンケートに答える際のお客さんの状態(空腹感、疲労度合い、時間の余裕など)と普段注文する際のお客さんの状態が異なるためです。
お客さんの状態が異なればその時とる行動も異なります。
なので、アンケートを鵜呑みにするのは危険な場合があります。
ユーザー行動を把握する有効な方法はユーザーの行動を直接観察することです。
ユーザーに気づかれないように購買行動を観察することで、バイアスのかかっていないユーザー行動を把握することが出来ます。
フット・イン・ザ・ドア
簡単なお願いを聞いてもらってから、本命のお願いをした方が通りやすいという理論です。
例えば、ユーザーに環境を守るために超少額の募金をお願いします。またしばらくして、購入すれば環境団体に寄付が入る商品の購入をすすめるなどすると、買ってもらいやすくなります。
これは最初に「環境を守る」という意思決定をユーザーにさせることで、ユーザーが無意識的に「行動に一貫性を持ちたい」と思うことを利用したテクニックです。
簡単なお願いと本命のお願いは共通の「軸」が通ったものにする必要がある点に注意しましょう。
確証バイアス
「これは正しい」と一度思い込んでしまうと、それが正しいという根拠ばかり探してしまうバイアスです。
例えば、とある家電が欲しくなったとき、同じ値段やもっと安いもので機能が良い製品はたくさんありますが、気に入った家電の良いところばかりを探して悪いところは見なくなるということが該当します。
自分の決断に絶対的な自信を持っており、曲げることは難しいです。
真理の錯誤効果
あり得ないことでも繰り返し聞かさせるとあり得るかもと思えてくる現象のことです。
例えば、「テレビを1日3時間見る人は声が小さい」ということを言われたとします。
これは今私が考えたデタラメな事実なので、最初に聞いた時は「そんなことある?」と疑いますが、繰り返しこの話を聞かされると「そういうもんか」と信じてしまうことがあります。
このような現象にとらわれないためには「そんなことある?」と疑いを持った時点で事実かを検証すると良いです。
身体的認知
五感で感じることと感情は連動しやすいという理論です。
例えば、意識して笑顔で仕事をする場合としかめっつらをして仕事をする場合だと笑顔で仕事をした方が仕事を楽しく感じると言った現象が起こります。
他の例だと、冬に従業員に対して面談をするとします。部屋を寒いままにして面談する場合と暖かくして面談をする場合、面談の内容に関係なく部屋を暖かくして面談をした方が「この面接官は暖かい人だ」という印象を従業員に与えることが出来ます。
概念メタファー
人は真っ直ぐなものに対して高級感、優位性、権威性など上位なものであるという印象を持ちます。
例えば、背が低く幅広な瓶よりも背が高く細長い瓶の方が高級感を与えます。
また、広告のクリエイティブに物の画像を配置する時はナナメに配置するよりも真っ直ぐに配置した方が高級な印象を与えることができます。
逆に親しみやすく庶民的な印象を与えたい場合はナナメにしたり背を低くすると効果的です。
双曲割引モデル
ユーザーは今日明日のことになると時間について気にするが、遠い先の未来の話になると気にしなくなるという理論です。
例えば「バイト代を今日10,000円受け取るか来月12,000円受け取るか」を聞くと多くの人が今日受け取る方を選びますが、「バイト代を6ヶ月後に10,000円受け取るか、7ヶ月後に12,000円受け取るか」と聞くと後者を選ぶ人が多くなります。
それぞれ待つ期間としては1ヶ月間で変わりないのに、遠い未来の話になると時間の差を気にしなくなる傾向があります。
これは先のことになると時間を認識しづらくなるからと言われています。
これに似た現象でお金の桁についても桁が多くなるにつれて認識しづらくなるという現象もあります。
100円と150円の差と10,000円と10,050円の差だと前者の方が高く感じます。
解釈レベル理論
遠い未来の話になるほど、抽象的なことを考えやすいという理論です。
例えば、1年先にテーマパークへ遊びに行きたいと考えているユーザーの頭の中にはテーマパークの楽しい雰囲気が漠然として存在していますが、1ヶ月先にテーマパークへ遊びに行くユーザーはチケット代や交通手段、当日どんな遊具に乗るか、宿泊先のホテルはどうするかとといった具体的な計画を立てようとします。
このように、イベントがいつ予定されているかによって抽象的に考えるか、具体的に考えるかは変わってきます。
遠い未来のことを宣伝する際は具体よりも抽象的に、近い未来のことを宣伝する場合はより具体的に訴求する必要があります。
快楽適応
人はどんなに嬉しいことがあっても、しばらくするとその強度に関わらず平常心に戻るという現象です。
例えば「旅行に行って遊んだ」「美味しいものを食べた」「プレゼントをもらった」といった嬉しいことが一度に起こった場合、沢山嬉しいことが起きたはずなのにしばらくすると平常心に戻ります。
必ず人は平常心に戻るということを考えると、嬉しいことは一度に与えるのではなく、少しずつ小出しにすると良いです。
「旅行に行って遊んだ」の嬉しい気持ちから平常心に戻ろうとしたときに「美味しいものを食べた」を発生させ、しばらくしてから「プレゼントをもらった」を発生させる。そうすると一度に嬉しい気持ちを与えられるよりも嬉しさが長く続きます。
これは嫌なことも同様の現象が認められるため、例えば嫌な仕事を振る時には少しずつ与えるのではなく、一気に与えてしまったほうが嫌な気持ちでいる期間が短くなります。
デュレーション・ヒューリスティック
課題を短時間で解決するよりも時間をかけて解決したほうが顧客満足度が高くなるという理論です。
本来であれば課題は短時間で解決したほうが良いものですが、時間をかけて解決したほうが時間をかけて丁寧に対応してくれたという印象を持つ人が多いです。
ただ、テキパキと早く解決する人のことを評価する人も一定数いるため、相手を見て時間のかけ方を考えたほうが良いでしょう。
自分のリソースの都合などで、どうしても早く答えを提示しないといけない場合には「熟考を重ねた結果…」などと言って適当に出した答えではなく、考え抜いた結果出した答えだということを口頭で伝えるようにしましょう。
系列位置効果
人が複数の情報に一度に接触した場合、接触する順番で記憶に残りやすい情報が変わってくるという理論です。
初めに接触した情報が記憶に残りやすいことを「初頭効果」、最後に接触した情報が記憶に残りやすいことを「親近効果」といいます。
例えば、コンペに参加する機会があり、もし順番の希望を出せる場合は最初か最後に発表を希望すると審査員の記憶に残りやすく選ばれる確率が上がります。
逆に面接官の印象になるべく残りたくない場合は最初と最後に面接をするのを避け、真ん中あたりの順番で面接をするのが良いでしょう。
単純存在効果
人が何か意思決定する時、周りに人が居るか居ないかで意思決定の結果が変わってくるという理論です。
例えば、お店でお土産を買う場面があった際、お店の中にお客さんが居るときと全く居ないときでは、購入されるお土産の種類や価格帯が変わってくることがあります。
こういった理由からもユーザーへのアンケート調査よりもユーザーの購入行動をこっそり観察する方が行動分析を行う際には有効と言われています。
過剰正当化効果
好きだから無償で取り組んでいた趣味などが金銭的な報酬を伴って仕事になった途端にモチベーションが下がるという効果です。
趣味で取り組んでいた時期は自分の好きな時に好きなだけ楽しんで取り組むことができますが、金銭的な報酬が伴うと、たとえかかる労力が変わらなくてもやらされている感覚や義務感、責任感など精神的な負担を感じてモチベーションが下がってしまいます。
そのような場合は「いつもありがとう。助かってるよ。」といったような声掛けを行い、お金を払ってるからやらされてるのではなく、助けになっているのだと感じさせ、気持ちの面でモチベーションを上げてもらえるような関わりが必要になります。
情報オーバーロード
与えられる情報量が多すぎると非合理的な判断をしやすくなるという理論です。
例えばプロジェクトの方針を決めるのに、膨大な種類と量の情報を与えられるより、イシューに絞った情報を与えられたほうが合理的な意思決定に繋がりやすいです。
選択オーバーロード
選択肢が多すぎると選べなくなるという理論です。例えば、スーパーマーケットで洗剤を買おうとした時に、色々なメーカー、色々な種類の洗剤がズラッと陳列されていると、どれを選んで良いのか迷うといったことです。
お客さんはバリエーションに富んだ品揃えを求めますが、実際商品を全部目の前に出されると「選びたくても選べない」状態になってしまいます。
これを解決するにはお客さんに見せる商品は数を絞ると良いです。
「当店は数100種類の洗剤を販売している専門店。洗剤のことならおまかせ」と謳ったうえで「おすすめの洗剤はこの3つ」と、お客さんに選んでもらう時には選択肢を絞ります。
こうすることでお客さんも商品を選びやすくなります。
プライミング効果
五感から受けた刺激でユーザーの意思決定が変わる効果のことを言います。
例えば、コーポレートサイトのテーマカラーが「赤」の場合と「青」の場合だと、ページに書かれている内容は同じでも「赤」が多く使われているサイトは挑戦的で情熱的な印象を受け、「青」が多く使われているサイトは論理的で聡明な印象を受けます。
その他、視覚、聴覚、嗅覚などからも人は無意識に影響を受け意思決定が左右されます。
特に実店舗でビジネスをする際にはプライミング効果にも気を遣うと良いです。
フレーミング効果
同じことを言っていても訴求するポイントによってユーザーの意思決定が変わってくる効果のことを言います。
例えば、「全品20%オフ」という訴求と「通常価格の80%の価格で購入できます」という訴求があるとします。両方とも同じことを言っていますが、ユーザーの意思決定は変わってきます。
このように同じ訴求でも表現を変えてテストしてみると思わぬ良い結果を得られる可能性があります。
比較と単独
単独のものを評価して購入した場合と比較してものを購入した場合では、同じ商品でも支払う値段が変わってくるという理論です。
例えば、液晶テレビを購入したいと思っているユーザーに10万円の液晶テレビを提案するとします。
単品だけ見せられると「ちょっと高いなぁ…」という印象を与えてしまいますが、隣に30万円のテレビを並べると「30万に比べれば安いか」という印象を持たせることができ購入に誘導できます。
デフォルトの効果
オンラインショッピングで商品を購入する際、注文確認画面で「メルマガを購読する」にチェックが入った状態で表示されることがあります。初めからチェックを入れていた方が入れてない場合よりもメルマガを購読しやすくなります。
これは現状変更を嫌う人の心理を利用した施策です。何かに同意を促したい場合は、初めからチェックを入れたフォームを用意すると良いかもしれません。
もちろん、企業の印象にも関わってくるため適用は慎重に行う必要があります。
Power of Because
何か人にお願いごとをする際、何でも良いので理由を付けた方がお願いを聞いてもらえやすいという理論です。
その際に付ける理由の内容は「理由になってなくても」良いです。
この手法は特にユーザーが熟考する時間がない時や思考が周りにくいタイミングで効果を発揮します。
押し付けるより選ばせる
他人に言われてやらされるよりも「自分で選んだこと」の方が抵抗なく実行できると言う理論です。
例えば、何か仕事を依頼する際に「Aさんのフォローをお願いします」と言うよりも「Aさんのフォローをお願いしたいんだけど○と○どちらの仕事が良い?」と選ばせた方が快く仕事を引き受けてくれます。
印象による影響
バンジージャンプが安全か危険かを尋ねると「危険、こわい」と回答する人が多いですが、多くはデータに基づいて判断している訳ではなく、印象によって判断していると思います。
このように「〇〇そう」という印象は人に非合理的な意思決定をさせてしまいます。
相手が商材についてどのような印象を持っているかを把握したうえでネガティブな印象を払拭するための材料を用意する必要があります。
人によって持つ印象が異なる
虫についてどのような印象を持つでしょうか?ある人は嫌いだという印象を持ち、ある人は好きだという印象を持ちます。
あるものにどのような印象を持つかはその人が育ってきた環境に大きく左右されます。
当然、何か商材を紹介する際、その商材に対してポジティブな印象を持つか、ネガティブな印象を持つかは人によって異なります。
セールスを行う際には商材に直接繋がらないものの関連するような話をし、その際の相手の表情や反応をみて、本命の商材にどのような印象を持っていそうか探ることが有効です。
さいごに
行動経済学は上手く使えばマーケティング施策の改善に役立ちます。
適宜記事も更新していきますので、また覗きに来ていただけると幸いです。
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